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クレバスと炸薬亭

映画や本、お芝居などのレビューを中心にやってくよ。

七転び八起きやで信仰は

評判のいい『沈黙』を観てきました。
 
原作未読でしたがともかくいろいろ考えさせられた。
 
キリスト教を弾圧する側の日本人たちがステレオタイプな悪役として描かれていなかったのがよかった。さすがスコセッシ様。
 
当時の宣教師たちが奴隷貿易と結託していた(もちろんそれに反対した宣教師もいたがイエズス会は後年に至るまで黙認)こと、キリスト教の布教がその後の植民地と重なっていくことなどを考え合わせるとキリシタン排斥政策は仕方のない一面もあるよね。
 
宣教師たちが日本の文化程度を無意識に見下してると見抜く通辞・浅野忠信のセリフとかよかった。
 
この小さな島国にも誇るに足る精神性が根付いてる。それを踏み絵より先に踏みつけにしたのはおまえらじゃないのか、という鋭い声が作中に響いていて頼もしい。
 
そのあたりを差っ引いてもやっぱりジャングルだろうと砂漠だろうとグングン突っ込んで宣教するカトリックの宣教師の情熱はすごいと思う。
 
仏教とかの布教は基本的に交流のある国に招かれたりして行くってパターンが多い気がするけどカトリックの人たちはガチの飛び込み営業だからな。
 
相手が首狩り族だったり食人族だったりしても聖書と十字架をプレゼンしなきゃならない。言葉も通じないしプロジェクターもパワーポイントもない。過酷すぎてげんなりする。
 
テーマになっている信仰そのものについてはこう思う。
 
神様は何も赦さない。そもそも咎めないから。何も咎めたりしない存在が赦すことがあろうだろうか。
 
 

ぶんにゅうううう(パペラキュウ)

パペラキュウ

 

松永豊和のパペラキュウはいまだ未完、現在もネットで続行中である。

 

傑作の呼び声高いが、私もそう思う。加えて彼のHPにある「邪宗まんが道」を合わせ読むと何かがカチリとハマる。

 

そうか、と納得する。

 

納得されたのは、こういう漫画を描く人はこういう小説を書くだろうということ。その逆もまた然り。まるで当たり前のことで誇れることじゃないが、本当にこの2作品が互いを証明し合ってるみたいだ。マンガはフィクションであり、小説は基本的にはドキュメンタリーだが、ふたつは同じだ。

 

感染と変質、ついで破裂。

 

パペラキュウ菌という生物兵器は、人間の頭部を蟹のようにしてしまう。蟹のハサミは当人の頭髪を刈りつくして長い年月の中で脳を呆けさせる。

 

感染方法は体液を摂取することだが、尿ではなく血液だと感染者は耐えきれず頭を破裂させて死んでしまう。

 

この構図は「まんが道」の主人公が被害妄想に囚われ続けたあげく、圧縮させ続けた衝動や情念を作品にして爆発させるのに似ている。免疫力の低い主人公は容易に他人の悪意に感染して巨大に怒りのハサミ(ペンを?)を振りかざすのだ。

 

それはそうとして、尿と血液ではく精液だとどうなるのだろう? 具体的には性交渉で感染した場合、パペラキュウ菌はどのような結果を及ぼすのだろうか。

 

発症の瞬間、赤子の産声のようなものが発せられるのだが、発症が誕生であるならそれに先立つ受胎(性交)も容易に連想させるだろう。

 

どこかにその場面が登場することを待っているのだが、どうだろうか。

結末はまったく予想できないが天才ならぬ我々は座して待つことする。

 

 

長駆8000マイル(駆け込み女と駆け出し男)

魍魎の匣以来観ていなかった原田眞人監督作品。

 

kakekomi-movie.jp

 

大泉洋満島ひかり戸田恵梨香樹木希林堤真一など、豪華キャストで繰り広げる時代劇です。ただ題材が渋い。離婚したい女が駆け込むシェルターのような寺東慶寺での騒乱が描かれる。

 

この時代、女性側からの離縁は許されていなかったと作中説明される。そこで虐げられた女性たちの緊急避難場所としての東慶寺(お山)が最後の拠り所となるわけである。

 

物語では相当複雑な何組かの夫婦の事情が取り上げられる。

 

誰もが悲しい境遇であるわけだが、そこに新米医者であり戯作者志望の男である進次朗が現れる。大泉洋の好演が光りまくり、ともすれば暗い話になりがちなこの映画を救っている。

 

途中わからなかったのが東慶寺の隠し部屋のシーンである。あれは隠れキリシタンのマリアがあったのね。つまり、東慶寺の一番偉い人は仏教徒ではなく、キリシタンだったというわけだ。

 

ふーむ。そのあたりは個人的にはもっと掘り下げて欲しかった部分だ。確かに修道院長のような佇まいだったもんなあの人(役者名も役名もわからない笑)

 

あと、江戸の時代に想像妊娠という症例を扱うというところも興味深かった。大泉洋が直してしまうのだが、なんだか悪魔祓いのようで気になったなぁ。現代の想像妊娠はどうやって対処しているのだろうか。江戸にも症例はあったのかなぁ。

 

ちょこちょこと気になるとこはあった。でも、それはわたしの嗜好ゆえにもっと突っ込んでくれと思う場所で、作品としてのバランスは素晴らしいのではないでしょうか。

 

おぎんと堀切屋の関係は素敵だった。「粋ではなく徒」ね。

 

武田真治のダメ夫役もなかなかよかった。美形のダメキャラはあまり説得力がない場合とダメさ倍増のパターンがあるが、今回のダメ倍増パターン。よかった笑 後半の更生して社会復帰する場面、がっかりと感動が平行して押し寄せてきたよ。

 

うん、曲亭馬琴の刻苦もよかったね。作家の鑑だ。名作の誕生の裏には苦悩があるのだ!!! 

 

多くのエピソードが盛り込んであってお腹いっぱいだけど、これは好きな時代劇に入ります。いいなぁ江戸。