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クレバスと炸薬亭

映画や本、お芝居などのレビューを中心にやってくよ。

宇宙一の立ちションベン(思いやりのススメ)

Netflixでは良質なオリジナル作品を見ることができる。

 

『思いやりのススメ』は原題を『FUNDAMENTAL CARING』と言い、直訳すると「思いやりの基礎」???かな。

 

息子を亡くし妻とも離婚という羽目になった男=アントマンを演じたポール・ラットが、難病の青年=クレイグ・ロバーツの介護をする。そのうち、あれやこれやの末、二人だけで旅に出るという筋立て。

 

途中旅は新たな仲間を加えながらそれぞれを過去と未来に向き合わせていく、といった感じかな。知らなかったけど大人気セレーナ・ゴメスも家出少女役で出てる。

 

上質なロードムービーなのは確かですが、これは凸凹バディものとしてもすぐれている。バツイチ男と難病青年の歯に衣着せぬ言い合いぶつかり合いは、胸がすく気持ちよさだ。

 

クレイグ・ロバーツの口汚さは一級品だが、どこかガキの背伸びな感じがして可愛くもある。やもすれば感動ポルノになりがちな設定を救っているのは、このクソガキ感だろう。

 

この旅に青年はどん底に突き落とされるのだが、破れた幻想の向こうに何か新しいものを発見する。それは初恋だったり生命の温もりだったりする。

 

そして念願の宇宙一の立ちションベン(車椅子の彼はひとりで用を足すことができない。立ちションベンはもちろん!)を成功させることができるのか。

 

旅の目的があっけなく破壊されても旅は何かを旅人に残す。細かな伏線と裏切りを重ねて、ユーモラスで美しいラストにたどり着くまで視聴者は眼が離せない。こいつらはどこまでも危なっかしいから。

 

そして旅は続く。

 

 

師匠と呼ばないで(りゅうおうのおしごと)

一般の生活で誰かに「師匠」と呼ばれることはギャグか冷やかしでないかぎりあまりない。

 

師匠と弟子という関係が成立しているのは現代は非常に限られた業界だけだよね。

 

今回はライトノベルをひとつ。タイトルは『りゅうおうのおしごと』である。

この「りゅうおう」という肩書き、そう竜王だ。でもドラクエ1のラスボスのことではない。将棋のタイトルのことなのだ。

 

GA文庫|「りゅうおうのおしごと!」特設ページ

 

この小説のシリーズは若くして「竜王」のタイトルを得てしまった10代の棋士が、小学生(女子)の弟子を受け入れて、自らも成長を遂げていくという物語となっている。

 

キャラ造形やハーレム展開はいかにもラノベっぽいのだが、将棋に関する描写はとってもリアルで面白い。棋士女流棋士の違いなんて知らなかったし、奨励会とか研究会とかの内実にも無知であった。

 

将棋そのものというより将棋界なるものの実体がおぼろげながら見えてくるのがまず楽しい。なにより棋士たちが抱える苦悩や悲嘆や歓喜を非常にうまく書いてくれている。

 

アドバイザーがついているにしろ、毎巻どこかで泣かされてしまうのが憎い、憎たらしい。ドラマの作り方がコンパクトで巧妙なのである。泣かせどころの作り方がとってもうまい。勉強になるなぁ。

 

好きなキャラは桂香さんです。天才でもなければ根っからの将棋好きでもないのに将棋界に足を踏み入れてしまった女性。おっぱいが大きい美人で、主人公の師匠の娘さんで面倒見のいい疑似母であり姉であるという役回り。

 

この小説を読んでいて一番応援したくなるのが桂香さんなのです。他のやつらはいろいろあっても所詮天才(!)

 

最後の最後で感情移入ができにくい。その点桂香さんは真面目なのが取柄なだけの凡人なのです。小説を読んでいるほとんど人がそうであるように、ただ愚直に努力を積み重ねていくしかない。それでも思うようには勝てない。

 

女流棋士になる制限年齢ももうすぐだし、頑張ってほしい!!!

 

と、フィクションのキャラに入れ込んでしまう、入れ込ませてしまう力がこの作品にはあります。将棋、久しぶりに打ってみたいなぁ。

PK 神様神様神様

昨日の記事で取り上げた『この世界の片隅に』は個人的2016年・映画ベスト2でした。

 

ベスト1はと言えばコレです。

 

pk-movie.jp

 

インド映画の金字塔『きっとうまくいく』のラージクマーリ・ヒラリ監督。そして主演も同じくアーミル・カーン

 

このコンビの鉄壁さを改めて証明する映画になった。いや、前作より個人的には好きだ。宗教というデリケートなテーマを風刺的に扱っていながら、神そのものを否定しているわけではないという微妙なバランス。

 

そうこういう映画が観たかったのだ、と思わず膝を打った。

 

突拍子もない設定も鑑賞後には、考え抜かれたシナリオだったと気づかされる。

 

こういう話だ。地球に降り立った宇宙人PK(酔っ払いの意)は、スペースシップを呼ぶためのリモコンを盗まれてしまう。インドを放浪するうちに、神であれば困りごとを解決してくれると知ったPKはインド中の宗教を遍歴し神に語り掛ける。

 

ここにラブストーリーもブレンドする剛腕は見事。笑いあり涙ありのもっともわかりやすい王道のコメディ映画に仕上がっている。それでいながら深淵でもある。

 

何かの到来を待ち続けるという意味では『ゴドーを待ちながら』っぽくもある。ただ、アーミル・カーン扮するPKはウラディミールやエストラゴンのようにひたすら待ってたりしない。動き回る。というのも決まった待ち合わせ場所すらないからだ。

 

神とはいつどこでランデブーすればいいのか。宇宙船や人工衛星のドッキングのように座標が決まっているわけもない。

 

56億7000万年後? それとも最後の審判の後でなら??? メッカでエルサレムでヴリンダーバンで?

 

この物語で、PKの願いは神に届く。でも、その過程で神のしもべを打ち負かさなければならなくなる。皮肉だろうか。もちろん打ち負かされるのは神の御心の誤った代行者たちだ。

 

彼らは戒律を都合よく歪め、罪や地獄で脅しつける。PKは子供のようなマインドですべてを丸裸に暴いしてしまう。

 

そのためにはまず自分が丸裸である必要があるだろう。そう、なにしろことのはじめから彼は一糸まとわぬ姿なのだ。のちに彼は衣服を手に入れるが、本質的には裸のままだ。心を偽ることもなく、嘘をつかない。

 

ラストシーン、はじめての嘘をついてしまったPKの姿に涙しない者があるだろうか。あまりにも切なくて優しい嘘だ。わたしは号泣したあげく、この映画に地上にもたらした神を賛美し、またとなくご機嫌な気持ちで家路についた。

 

宗教映画としてナンバーワンだったのはロバート・ゼメキスの『コンタクト』だったがついに牙城は崩れたと言えよう。合わせて観るのもいい。

 

ヒロインのキュートさやダンシングカーの楽しさなど、まだまだ語るべきところはあるが、そろそろ締めますか。

 

PK超最高。

 

世界中一人残らずもれなくゼッタイ観てほしい映画です。