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クレバスと炸薬亭

映画や本、お芝居などのレビューを中心にやってくよ。

エレウテリア

「迷人は方に依るが故に迷うも、もし方より離るれば、則ち迷うこと有ること無し」という言葉が大乗起信論という仏典にあります。

意味は、「方角」という観念があるから「迷う」という現象が発生するのだ、ゆくべき方角さえなければそもそも迷うということが在り得ない、ということです。

目的や規格があるから迷ってしまう。かといってなければ張り合いがない。そもそも何が面白くて生きてんだろーとなる。

この時期になると、仕事柄、卒業していく生徒たちにどんな言葉を送るか考えます。

「目的を持つのは素晴らしいことだ。ただし、目的を見失ってしまうのも悪くない。それは挫折ではなく、時として解放である」

僕はそんな前向きになりすぎない言葉を送りたいですね。だいたいどっちが前なのか誰が決めた??

意志を貫くこと。決して諦めないこと。

それらは偉大なことでしょう。しかし、別の視点を採用するなら、自らの強烈な意志に、生の多様性や柔軟さを蹂躙させておくことに過ぎない。

炎のような意志。焼け焦げひりつくような偉業。見事な生き様というほかない。でも、もっと何かがあるのではないでしょうか。

錆びた欄干の手触りや、冴え冴えとした月の冷気、少年マガジンの中ではいつまでも不良少年たちが抗争を繰り広げているし、インド人たちは今日もクリケットの試合に夢中だ。

シャーマン戦車とタイガー戦車が覇の競ったのは、いつの時代、どの大陸だったろう?

初恋の女の子がベンチで足を投げ出すあの姿勢。唇の感触、睫の記憶。

膨大な世界の様相に心と五感を開けば……運命と呼ぶほかない避けようのない「自由」すら訪れるでしょう。

「自由」の訳語であるエレウテリアという曲が最近好きでよく聞いてます。

エレウテリアとは僕の好きなサミュエル・ベケットの作品のタイトルでもあります。