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クレバスと炸薬亭

映画や本、お芝居などのレビューを中心にやってくよ。

PEACE(ジーン・ウルフ)

ロッド&リールの巻(レビュー)

新しい太陽の書』で有名なSF・ファンタジー作家ジーン・ウルフの最新翻訳作品『ピース』読了しました。

ウルフは非常に細密な作家で至るところに仕掛けがほどこしてあって、一度読んだだけでは味わいつくせない魅力がどの作品にもある。

信用できない語り手によって物語られるストーリーは、油断すると矛盾や言い落としに充ちていて、本当にどこに連れていかれるかわからない。

今回の小説にも、語り手のウィアがすでに死んでいて幽霊だとか、そうでないとかいろんな解釈ができるようになっている。あとがきやレビューでもだいたいそんな感じのことが書いてある。

未だなされていない細部の検証や解決できない謎も多い。

なにより、当のウルフが本作についてあまり語っていないという。

おそらく絶対的な答えというものはないままある程度の宙ぶらりんの余地を残した書き方をあえてしているのだと思うだけれど、僕としては他の人があまり選んでいない解釈をちょっと披露してみたい。

読んでない人にはまったく面白くない記事になってしまうかもしれないけど……ごめん。

まず大筋としては、この物語、アメリカ中西部の田舎町で生まれ育ったウィアという男の記憶をめぐる物語だということだ。時系列は入り乱れていてわかりずらいけれど、最後まで読むと、さまざまなエピソードがパズルのようにはまっていって美しい大きな絵ができあがる。

ただ、その絵にはこれ見よがしな欠落があるのだが、そこは読者がそれぞれの推測と想像で埋めなければいけないようになっている。綿密に読み込めば欠落は小さくなるが、なくなることは絶対にない。

細部の照応などは他のもっと詳しいサイトや研究に任せるが、僕が空想的に思い当たる黒幕というか最重要人物は、ルイス・A・ゴールドだ。

まず三章のタイトル『錬金術師』というのあるけれど、この作品中で本当に金を練成したのは名前の通りゴールドしかない。実験室での作業ではなく、埋蔵金というフィクションを作り出すことによって。

と、同時に、ゴールドは自分がネクロマンシー(死体を操るもの)だともほのめかている。っていうか明言してる?(少なくともそれを書いた人間だと)

そして死人というのは、この物語の語り手であるウィアのことだとすると、この死者を操り物語を語らせているのはこの男だという予測もありえるだろう。

古書店店主であり、贋作者でもあるといういかがわしさ、それに悪びれないあつかましさ。この不穏な物語にぴったりだろう。

この小説自体がゴールドの書いた精緻なフィクションではないかという気がする。これがこの作品を読んで僕が導きだした自分用の答えだ。