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クレバスと炸薬亭

映画や本、お芝居などのレビューを中心にやってくよ。

バカ野郎どもの三位一体

立て続けにインドを舞台にした映画を観ました。

『きっとうまくいく』

ダージリン急行

の二本です。

映画にはいろんなタイプがありますが、おおまかに二つにわけることができると思います。

この世界はホームか、それともアウェーか。

世界を包容性のある、根底として愛に満ちたものとして描くか、

それともグロテスクで残酷な場所として捉えるか。

どちらの映画にも素晴らしい作品がありますが、年齢を重ねてくると、後者のものより前者の作品が心地よくなってきました。

若い頃は、尖っててギザギザした救いのないような作品に惹かれていたのですが、もう歳なんでしょうか。肉より魚がおいしいと感じる、みたいな嗜好の変化かもしれません。

というわけで、上記の二作とも世界をホームとして、温もりと善意に満ちた場所として描いているので、善男善女のみなさんに自信をもってお勧めします!

『きっとうまくいく』は、原題が「3idiots」です。邦題より、端的でわかりやすくていいと思う。文字通り3バカトリオがドタバタを繰り返す話だが、現代インドの教育問題などが時折眼を背けたくなるほどシリアスな形で描かれており、けっこう考えさせられるのよ。

でもね、もちろんトータルでは生きることを全面的に肯定する、わかりやすいくらいドストレートな物語なので、元気をもらえること間違いなし。

印象として、どんな逆境にも屈しない主人公が飄々とみんなに影響を与え、啓蒙していくという感じで……みんな大好きな『ショーシャンクの空に』のテイストに近いかな。

滑稽なやつはとことん滑稽で、いい意味でキャラがマンガっぽく戯画化されている。そんなところも潔くていいですね。

二本目はウェス・アンダーソンというアメリカ作家の映画。なので、厳密にはインド映画ではなく、インドを舞台にした映画といったところです。

インドを訪れた三人の兄弟の話……と、ここまで書いて、これもまた3バカの話であることに気付いた! 驚愕である。そしてこの記事のタイトルも変更!

インド亜大陸は3人のバカがほっつき回るのにうってつけの土地なのでしょう笑

ウェス・アンダーソン監督の作品は「グランドブダペストホテル」もそうですが、独特の色彩と構図が素晴らしい。あと特徴的なのは寓話的な物語でしょうか。

ダージリン急行」も、あまり仲の良くない3兄弟が、ともに旅をする。ただ、それだけの話なのです。3人が3人とも癖のあるやつらで、ある意味インド人よりもインド人的だったりする。

弟の書いた短編小説に兄が「それって長いのか?」と聞くところなんて笑いました。

いや、短編だから……ね。

みんなマイペースでしかも、自分がヨーロッパから背負ってきた問題に悩まされ囚われてる。その象徴がすっごく高級そうな旅行カバンを何個も携えて旅をしてるところ。

まるで彼らの執着やこびりついた観念の重量を現わしているよう。

でもね、最後にね、一度追い出されたダージリン急行にもう一度駆け込み乗車する時にね、これまで後生大事に引きずっていた荷物を全部ホームに投げ出して、身体ひとつで電車に飛び乗るのです。赤服の運搬人たちに預けた荷物ごと捨てて。

この場面は美しいスローモーションでほんとににっこりしてしまう。

欧米の価値観も、父母への割り切れぬ思いも、全部放り出す。

この映画、インドというエキゾチックな土地をたんなる飾りのように浅く扱っただけの作品と思いきや、インドの重要な精神である「放棄」をきちんと描いている。

聖典もグルもサドゥも出てこないし、宗教的なお題目もほとんど語られないが、それだけに実は監督がインド的な思想に精通しているのではないかと思わせます。

もし、あなたが自分をバカだと思えるなら、もうふたりの同類を探して旅に出るのもいいかもしれません。

個人的には、20代の頃、彼らと似たような旅をしたことがあります。インドではなくてアメリカですが、ほんとうに3バカだったなぁ(遠い眼)

グランドキャニオンで日本から持ち込んだ蕎麦を食べながら年越しを迎えようとしたら警官に叱られたり……(グランドキャニオンは国立公園なので火を焚くのはNG)

街頭の娼婦、ショッピングカートを押すホームレス、野生のエルク。どれもはじめて眼にするものばかりだった。

そして上記の映画たちと同じく、アメリカという憧れの国は、通り過ぎる旅人がかいま見たフィクションとしてであれ、やはり善意と愛にみちた国でした。

身軽になりたければ3人で旅に出るべきなのです! そこで所有物をひとつまたひとつと捨てていった果てに、やがて世界そのものくつろげる我が家だった(全部自分のものだった!)と気付くことになるかもしれません。